♯画像生成AI ♯自作 ♯創作
「洞窟」
曇り空が大雨を大地に叩きつけた。
「しめた洞窟だ!」
雨の中ずぶ濡れになりながら男は山の麓に佇む洞窟を見つけそこで雨宿りをすることにした。
「ひどい雨だなぁ」
濡れた上着を脱ぎ傍へ置いた。
「しばらくは降るか…」
独り言が真っ暗闇へと吸い込まれていく。
それからまた雨音が静寂をかき消していく。
すると、か細い声で男を呼ぶ声が聞こえた。
「もし…」
「ん!?」
男は咄嗟に身を起こし、腰につけていた刀に手をやる。
闇の中で僅かに光る刀身が男の血流を勢いよく循環し構えを取らせた。
「そう、かっとなさらず。先に雨宿りさせてもらってる者です」
女の声でそう答えた。
「なんだ。いるならそう言え」
男はドカッと腰掛ける。
雨に降られた時よりも背中が冷めていた。
「どれくらいから降っていた?」
「私がここに入る前からずっとでした」
「そうか。すまなかったな」
「こんな時こそお互い様でしょう」
男の謝罪を快く受け入れた声の正体は暗闇で分からなかったが人当たりの良さは伺えた。
「…お前は俺に聞かないのか?」
「何をです?」
「なぜこんなところに来たのかをさ」
先程の身のこなしから男がただの旅人では無い事は間違いない。しかし、声の主は少しも動揺するそぶりを見せなかった。
「私も訳ありです。そんな事を聞くのは野暮ってもんですよ」
「はははっ!お前。話のわかるやつだな!」
男は声のする方に手を伸ばして肩を叩こうとした。ひんやりとした柔らかい感触が手を通じて伝わった。
「おや…?」
「…あまり無造作に触るもんじゃありませんよ」
「おっと!これはすまない」
「私が安い女に見えますか?」
「いや…見えないな。なにしろ暗闇だからな」
「ふっ…」
「はっはっはっ!」
両者の笑い声がこだました。薄暗い暗闇の中、ほんの少しだけ温もりがそこにはあった。
「お前にだけ話そう。俺はなE社の御曹司なんだ」
「へぇ」
E社の御曹司だという男に、声の主はあまり興味なさげに返事をした。
「だが異母兄弟である弟に、次期社長の座を奪われてこの様というわけだ」
「お腰に付けていた刀はどちらから?」
「実家を追い出されたどさくさに紛れてな。家宝だというからこれを質屋に売って生活の足しにするつもりだ」
「それは賢い選択ではありませんね」
「なんだと!?」
男は主が予想した答えとは裏腹の態度に驚いた。
「刀を盗む事に躊躇しない決断力。思い切りのいい行動力は賞賛に値しますが、この世は弱肉強食。食うか食われるか。そこから先の戦略が見出せておりません。今の貴方は食われる側です」
「ふーむ…。確かに俺は目先の事だけを考えていたな」
「貴方が食う側になる為に必要なのは後ろ盾です。貴方には無い一芸に秀でた者達を仲間にするのです」
「俺に協力してくれる者はいるだろうか…」
「先程、御曹司と申されましたね。あなたの世話をしてくれた方はどうでしょう」
「おぉ、爺やか!…いや、爺やは歳だ。今まで俺のわがままに付き合わせたのに、これ以上甘える訳にはいかん」
「…では、あなたを神輿として担ぎ上げようとする者を集めるのです。いわばスポンサーです。E社の躍進を面白くないと思う者はいくらでもおります。彼らに売り込んでみるのは如何でしょう」
「そうか。とするとA社やN社あたりが妥当か。あの2社はいつも我が社の不祥事を虎視眈々と狙っているからな」
「幼少の頃から貴方とお付き合いのあるお世話がかりを使ってE社の機密を持ってこさせその2社のどちらが高く買い取ってくれるか取引してみるのも手です」
「だがそんな事をして、俺の為に尽くしてくれた給仕達が路頭に迷ってしまったら俺は死んでも悔やみきれん。うーん…他にいい方法はないか…」
「ではこうしましょう。あくまで会社は潰さず、貴方をこの状況に追いやった弟だけを暗殺するよう殺し屋に頼むのです。これなら爺やや給仕には影響は出ますまい。先程の刀をどこか物好きなコレクターに高額で売りつければ暗殺費を払うのは容易い事でしょう」
「…」
主の提案に男は黙り込んでしまった。
「如何なされましたか?」
「いやな。俺の為に、こんなにも知恵を出してくれるお前が、俺のせいでいらぬ後ろ指を刺されてしまっては男の名がすたると思ってな。腐っても俺はE社の御曹司だ。人様に迷惑をかける様な事は出来んよ」
「なぜそう思うのです?」
「初対面で俺がE社の御曹司だと知った者は皆、媚びた言動をする。それが嫌でたまらなくてな。
さっきの話では会社を追い出されたと言ったがそうではなく、俺は自分から飛び出してきたんだ。それに腹違いとはいえ、弟は本当に気持ちのいい奴でな。不甲斐ない俺の為に精一杯、自分が今できる事をやってるよ。逃げた俺の尻拭いの為にだ」
「…」
「俺には思い浮かばない知恵を次々と出して後押ししてくれるお前に、自分が如何にちっぽけな存在なのかを思い知らされたよ。お前の言う通り、今の俺は食われる側だな」
「…」
「お前はどうしてだ?」
「食った…。人を何人もな…」
「こんな世の中だ。人を食い物にする輩にだって事情の1つや2つはある」
「…」
「誰かに本音を打ち明けられたのは、爺や以外でお前が初めてだ。ありがとう。おや…」
「…」
男が主にお礼を言い終わると同時に、雨は止み雲の隙間から日差しが差し込んでいた。
男は立ち上がった。顔は見えなかったが覚悟を決めた者の声で主に呼びかけた。
「もう1度、E社に戻ってやり直す。俺は俺を待ってくれている人、支えてくれている人に感謝を伝えて一生を終えたい」
「行くのですか?」
「行くしかない。それ以外に俺が皆んなに恩返しする方法が思いつかん。お前のような知恵者と違ってな」
男はニヤリと笑った。その顔にもう迷いなどなかった。
「俺は誰からの助けを必要としないほどの男になる。その時は俺と結婚してくれ。」
「…何故です?」
「俺が俺でいるにはお前のような女が側にいてくれなくてはならないと分かった。あの時、この洞窟で雨宿りをして本当によかった」
男は刀を背負うと洞窟から出た。距離をとった後、振り返って声の主がまだいるであろう洞窟に向かって叫んだ。
「必ずここに迎えに来る!待っていてくれ!
約束だぞ!」
男は声の主の返事も待たずに走っていった。
大雨の後の麓は辺り一面、水浸しとなり洞窟の外にも大雨によって水たまりができていた。
「食えぬ男だ…」
水面は男の走り去っていった方角をいつまでも見ている1匹の白大蛇を映し出していた。
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