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家族 ロケット アート
タイトル: 星の缶菓子
夕暮れが家々の屋根を温かく染めるころ、リナは小さな作業机の前で母の残したノートをめくった。ノートには、家族の記憶と空に浮かぶ光の形を結ぶ「アートの設計図」がびっしりと描かれていた。母はかつて、カラフルな絵の具と細い筆で、日々のささやかな出来事を宇宙へとつなぐ橋のように描いていた。リナはその橋の片端に、自分の思いを結びつける決意を固めた。
夜が深まるにつれて、リナの心には“ロケット”のイメージが浮かんできた。母が残したノートには、ロケットを飛ばすための設計図ではなく、心の内側にある宇宙を描く方法が記されていた。家族の歴史をひとつの絵として結ぶことで、失われた時間を取り戻し、未来へとつなぐことができると信じていたのだ。
リナは一本の木製ロケット模型を机の上に置き、父が撮ってくれた昔の家族写真をノートの間に挟んだ。写真には、祖父が木工の道具を手にし、母が色を塗る姿、そして小さなリナが笑っている姿が映っていた。それぞれが別々の場所で描いた光を、今度はひとつのアートとして組み合わせる番だと感じた。
彼女は夜更け過ぎまで絵を描き続けた。木の質感を活かすため、薄い紙を二枚重ね、削り出した形を粘土のように扱い、ロケットの胴体には家族の輪郭を刻んだ。窓の外では風が木の葉を揺らし、シャラシャラという音が作業の拍子となった。リナは筆を止めず、色を重ねるたびに、彼女の内側に眠っていた物語が少しずつ形を取り戻すのを感じた。
朝日が屋根の縁を金色に染めるころ、リナは完成した作品を「星屑の缶」と名付けた。缶の表面には、家族の記憶を小さな星として描き、蓋には「愛は航路になる」と書いた。中には、母のノートから抜き取った色見本と、祖父の手紙の切り抜きが詰められている。ロケットは、地上の世界と天上の世界を結ぶ砲弾ではなく、家族の思いを宇宙へと運ぶ画筆のような存在として描かれていた。
リナは学校へ向かう途中、街の人々の話に耳を傾けた。近所の子どもたちは、受験や部活の悩みを語るが、彼らの瞳にはまだ見ぬ宇宙が映っていた。リナは彼らに、家族の思いをアートとして換える方法を伝えたかった。「何かを描くとき、それはあなた自身の宇宙を広げることになる」と。そんな言葉が、彼女の手元の缶に集まる星のように、周囲へと広がっていくのを感じた。
ある日、学校の美術展でリナの作品が選ばれ、展示室には「家族」と「宇宙」を結ぶテーマが多数並んだ。審査員の一人が、リナのロケットを見てこう言った。「ロケットは飛ぶことだけが目的ではない。飛ぶことで、私たちは自分の居場所を確かめる。あなたの作品は、家族という宇宙の地図を新しく描き直している」。その言葉は、リナの胸に確かな拍動を刻んだ。
展覧会の最終日、来場にはリナの作品を一目見ようと多くの人で溢れていた。
